小原慎司の 「白い恋人」CM出演顛末記 4
投稿日 : 99年2月24日<水>00時50分
ちなみに撮影に臨む我々の足元は一様にスリッパ履きであった。あらかじめ、「スニーカーを用意しておいてください」との通達があったにも関らずである。おそらく画面に足元は映らないとは思うが、私のように、コンサレプリカにコンサバンダナ、宏太マフラーに加えてスリッパ履きでは、いくらアンアンが提案しようとも、そうとう着回しの効かない装いではあった。レプリカを持参しなかった人たちは、それぞれCM製作者側が用意したレプリカに着替え、準備万端。ちなみに用意されたレプリカは、なつかしいコンサドーレ初年度タイプであった。
最初のシーン。絵コンテによると、「札幌の街でコンサドーレを応援する若い人々」とあり、「白い恋人」のおなじみの缶を持った女の子のまわりでしきりに応援する男女数人が描かれている。ここで、ちさとちゃんのセリフ「道産子だもん、大好きっしょ、コンサドーレも白い恋人も」。斬新なカット割りがヴィスコンティの影響を感じさせ、日常の中の何気ない感動を浮き彫りにするセリフ回しはまるで往年の小津作品のようだ。近年まれにみるストレートかつダイレクトなCM表現に、もはや世俗的なコマーシャリズムから昇華してしまった芸術性さえ感じる。ていうか、これを俺たちがやるかと思うと、かなりこっぱずかしかった。
ディレクターの指示はこうだ。「練習中のコンサドーレの6人を応援する元気な姿を演じて欲しい」しかも、ちさとちゃんのセリフをはっきりと録音するために、エキストラは無言で演技してほしい、という。松浦君、どうするんだ、タイコは!?さらに、満面の笑顔で、との注文までつけられた。小学生で蜷川幸雄に師事し、中学生でブロードウェイに進出したことのある私はともかく、それ以外の皆さんには、ハイそうですか、と出来るわけがない。一同困惑したまま、テイク1の撮影開始。
「3、2、1・・・笑顔〜」
ディレクターの声がスタジオに響き渡る。
静かに回りだすビデオカメラ。撮影中を示す赤いランプ。
ぎこちない動きながら、それぞれ手を振ったり、メガホンを振り回して、無言で「声援」を表現しようとするエキストラ達。
「道産子だもん、大好きっしょ、コンサドーレも、白い恋人も・・・」
ちさとちゃんが、可憐な声で淡々とセリフを謳い上げる。
わたしも、手渡されたコンサドーレSフラッグを振り回し、必死のアピール。
永遠とも思われる数秒間。
「カット!」
ふうううう〜〜〜〜 一同ため息。
数人のCM製作者が見つめるモニタと同じ画像が、我々出演者からも見える位置にあるモニタに映し出される。つい今しがた撮影した映像がそこに再生されていた。さすがにプロのちさとちゃんの笑顔は見事だが、脇を固める我々エキストラの動きはやはり不自然で元気がなく、まるで「どさんこワイド」の札幌駅南口からの中継(しかも「かけたら万」)を見ているようだった。さらに、みな緊張のあまり無理に笑顔を作ってしまい、集団で志村けんのアイ〜ンをやっているような絵になってしまった。ただ一人、天然娘ミッチーを除いては。彼女は、その驚異的な適応能力とパラッパくんのような帽子で、すでにこの異空間の雰囲気に溶け込んでいたのである。 つづく
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