小原慎司の 「白い恋人」CM出演顛末記 
投稿日 : 99年2月23日<火>00時19分

スタジオは10メートル四方くらいの窓のない部屋で、天井からはライトが煌々と照っており、三十路の私にはそれはあたかもルパン三世を照らすサーチライトを連想させた。スタジオ向かって正面には緑色の布が一面にかけてある。これは後日、クロマキー合成を行うためのもの。クロマキーとは、車のキーのことではなく、ましてや、かつて、乗ってる車も黒〜、全部黒〜と歌われた元巨人軍の助っ人外人のことではない。ビデオの特殊撮影の一種で、後ろの緑の布の部分には、後日まったく別の景色が合成されるのだ。若い皆さんには、オレたちひょうきん族のタケチャンマンのオープニング映像を思い浮かべていただければ、すぐ判るであろう。その対面には、CM製作者が7〜8人モニターを囲んで座っており、すでにカメラのセッティングが行われていた。我々は緑の巨大な布の前でこれから演技をし、己の情念を眼前のカメラに映し込むのだ。

CM撮影には「絵コンテ」と呼ばれるものがまず制作される。これは男同士の江頭2:50じゃないほうとは全く関係がなく、こういうCMを作りたい、というのを実際に「絵」と「セリフ」にして表した、台本の様なものである。故黒沢明監督が書いた「夢」の絵コンテが、後日CMで使われたのは有名な話であるが、あの絵コンテがこのCMでも当然のごとく作られ、出演者である我々にも説明された。それによると、我々エキストラ集団は、プロのモデルであるちさとちゃんの左右と後ろを取り囲むように配置され、それぞれ演技にいそしむことになる。そこで、まずはそれぞれの「立ち位置」を決定することにした。私以外の若いエキストラの諸君は、なぜか恥ずかしがってベストポジションに立とうとしない。私は画面にすこしでも映って、世の団塊の世代へのアピールとするべくこのCMエキストラに応募したクチなので(といっても、そんなにトシくらってないんですよう)、ぜひともちさとちゃんの横に立ちたかったのだが、ビデオ写りを考慮した結果、結局最後列の向かって左端に配置されてしまった。一番トシを喰っている上に、3メートルをゆうに越す身長(追い風参考記録)が災いしたようだ。全員の顔が映るようにと、身長の順に配置されてしまった。ちさとちゃんのすぐ横には沙織さん。また真後ろには、パラッパ君がかぶってるやつみたいな帽子をかぶった天然娘ミッチーが立ち、さらにそのそばにタイコの松浦君や、若く見えるが私と結構トシの近いOUR PRIDEの藤田くんが立つ。私はといえば、一番左端。その隣は、全然サポーターじゃない純粋なエキストラの男の子。さらに筋金サポのたすく君。いつもはゴール裏の先頭に立って、熱い応援を繰り広げている彼だが、ディレクターにむりやりVメガホンを渡され、その扱い方に精通しておらず、なんだか変な持ち方をしていたようだ。私には彼がメガホン持っている姿だけで十分笑えるのだが、それがブラウン管の向こうまで届くかどうか?それぞれ自分の立ち位置を決定した各人の足下に、黒いビニールテープが貼られる。それはあたかも、熱い戦いの渦中に向かわんとする、F1のスターティンググリッドにも似ていた。しかし、沙織さんがシューマッハ、ミッチーがハッキネンとしたら、私の位置はルーベンス・バリチェロくらいの差があった。このままではいけない。オジサン世代の代表として若者にまけてはいられない。それぞれの思惑をよそに、CM撮影は本番を迎えた。
つづく


前へ][次へ]/[表紙へ][イベント出演のページへ戻る