小原慎司の 「白い恋人」CM出演顛末記 13
投稿日 : 99年3月15日<月>22時21分

これまでのあらすじ
札幌市にすむ30男、小原慎司。しがない私立探偵として平凡な毎日を送る彼の元に、ある日差出人不明の手紙が届く。「私はメーテル。鉄郎、999に乗りなさい」謎のメッセージに誘われるまま、未知なる大地へとその一歩を記した小原の前に立ちはだかる呪いのビデオの謎とは・・・

 さてCM撮りもいよいよ終盤。高見沢氏にむりやり、朝もはよからヘアーの乱れをせっせとせっせと整えてもらってすっかり気をよくした私に、ディレクターからの指示がとぶ。
ここまでのCMの流れはこうだ。最初のカットが、ちさとちゃんを囲んで選手に声援を送るサポーター達。そのあと、オンエアでは練習する選手たちの絵が挿入されているはずだ。絵コンテ上ではこのあと、サポーター全員で「みんな、がんばれー!」の声援を送ることになっている。そのあと、なぜか、宏太、村田、大野、佐賀、河村、藤ケ谷の各選手が振り向きざまに、親指を立てるシーンが挿入され、それをうけて、先程撮った「うけまくるサポーター」の絵となる。順番が微妙に前後しているのは、これまでのシーンが正面水平のカメラ位置で撮影していたのに対して、この全員で「みんな、がんばれー」と叫ぶシーンが、若干高めのカメラ位置からの俯瞰で撮られるからなのだ。3年B組金八先生のオープニングで、武田鉄矢が「さんね〜ん、び〜ぐみ〜!!」と叫んだあと、突然「き〜んぱちせんせ〜」と奇声を発しながら現れた学生服姿のテロリスト集団に包囲された上に殴る蹴るの暴行を
受けるシーンが有名だが、あれと同じカメラアングルと考えていただければ、平成生まれの諸君も理解しやすいであろう。

そんなわけで、我々の前にバビルの塔を彷彿とさせる巨大な脚立(ただし砂の嵐に隠されてない)が設けられ、ビデオカメラがその上方にセットされる。カメラマンが、ファインダーを覗きながらカメラの位置を固定する。皆、若干見上げたような形でカメラに収まる形になるのだが・・・あれあれ?モニタに映るサポーターの中に私がいない。もともと画面左上の世界地図でいうところのアイスランド(ちょうど鼻の辺りが首都レイキャビク)に位置していた私だったので、微妙なカメラアングルの変化に対応できず、すっかり画面外に切れてしまっていたのだ。だいたいが
、これまでの撮影でも一人だけ跳ねまくっていて、初見で小原慎司と視認するのは相当困難な状況だというのに、このチャンスまで逃してしまっては、「いったいどこに出ていたの?」と思われかねない。私をCMに出演させるために、炊き出しまでやって応援してくださったよしむらさん始め、全国3人の小原マニアのみなさんにも申し訳が立たない。せめてアルマゲドンの松田聖子なみには露出したいというのが、人情というか紙風船というものであろう。

 私は強権を発動した。こうなったら、年甲斐もなく割り込むしかない。大義の前にはモラルは消し飛ぶのだ。歴史はこうして作られてきた。モニタ上で、ミッチーの上方にちょうど頭一個ぶんのスペースを見て取った私は、3メートル50センチ(推定)の巨体を器用に折り畳むと、このスペースに強引に割り込み、ぽっかりと顔を出すことに成功した。かつてボストン交響楽団でピアニカを担当していたときに小沢征爾に教わったテクニックが、こんなところで役に立つとは思わなかった。うまい。ポジション的には、かなりいい場所だ。画面の中央、やや上方左寄りに私は顔を固定した。まわりのサポーターも、この三十路男を哀れに思ったのか、一人として私をとがめるものはいなかった、ていうか、みんな早く帰りてえと思っていたらしい。よし、これでばっちりと画面に映ることができる。一人で盛り上がる私であるが、中腰とも空気椅子ともつかない無理な姿勢の保持は、確実に私の肉体をむしばんでいた。その証拠に、翌日私の大腿部には、のびのびサロンシップが装着されていたのは言うまでもない。つづく。次号 最終回30分拡大スペシャル!!


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