小原慎司の 「白い恋人」CM出演顛末記 11
投稿日 : 99年3月9日<火>23時00分
一同、額の字を「肉」に書き換え、撮り直しとなった。ディレクター氏によると、エキストラの声にオリジナリティが乏しく、ともすれば画一的となってしまっている、との事であった。それぞれが、頭の中で自らを練習場に置き、選手達をしっかりとイメージする必要があるらしい。
ディレクター氏は、CMにリアリズムを織り込みたいとの意向なのだろうが、しかし、ぶっちゃけた話、今回のCMのように、選手の練習を見学に行って声援を送るサポーターが本当に存在するかは疑問ではある。少なくとも、月寒の大同ほくさんグランドで、メガホンを手にしたサポーターはごく少数であり、レプリカを身にまとったサポーターはさらに少数であり、ましてやタイコを練習場にもちこんだり、パラッパくんのような帽子をかぶったり、マジックスパイスで平気な顔で「虚空」を注文したりする者は皆無と言ってよいだろう。
よりリアリズムを追及するならば、出演者は、選手の練習をよそに雑談に興じていたり、手に手に色紙やカメラやファンレターを持って出待ちしたり、私のようにサッカーカードのトレード交渉などをしたり、混迷するアジア通貨危機に対する議論を戦わせたり、ダンスダンスレボリューションのステップ練習などをするべきなのだが、一般のみなさんの練習場におけるサポーター像とは懸け離れてしまうのであろう。ここで構造論を持ち出すまでもなく、CMとは既に虚構のリアリズムであるという点で納得するべきなのかもしれない。
ここで、ディレクター氏よりタイコ使用許可がおりる。今回の出演は、本人の知らないところでなかば仕組まれたものであり、タイコだけにバチがあたったみたいだ、と言っていた松浦君であったが(言ってねえよ)、本来のポジションであるタイコ係に徹することことができて、かれも面目躍如といったところだった。
ディレクター氏が穏やかな、そして赤塚不二雄のような笑顔で言う。
「みなさん、いいよう〜、すごいいい〜〜。それじゃ、もう一回撮ってみよう!しっかりと、目の前に選手が練習してるところをイメージして!!」
それぞれが眼前に、月寒の青々とした練習場を思い浮かべる。その集中力たるや、ガメラと話が出来るスティーブン・セガールの娘なみであった。その瞬間、たしかに我々の眼前に、赤黒のユニホームを身にまとった6人の選手達(しかもアディダス着用)が現れ、パス練習を始めていた。
「よし!!」
「いいぞお!!」
「宏太ー!!」
「いけえ!!」
だれもが月寒か栗山の練習場をイメージしていたはずだった。ただ一人天然娘ミッチーを除いては。彼女の頭の中には、なぜか厚別競技場がイメージされていたのだ。そして、とうとう禁断の言葉を口にしてしまった。
「シュートだあ!バルデス〜!!!」
つづく
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